美術作品の触覚性に関して、美術批評を中心に文献資料を収集し考察を行う。この調査・考察から、先行研究の整理や現在の美術分野における「触覚」の言説を知ることができた。美術作品における触覚性に関して、その特性に焦点があてられるようになったのは、1950年代からドイツやアメリカを中心に美学の分野で研究が行われてきた。しかし、鑑賞者の視点から触覚の特性に焦点をあてた研究は1990年代までは行われていない。日本においては、1990年代から美術館における教育活動への関心の高まり、障害者による芸術活動の広がりなどにより、美術鑑賞活動における触覚の特性が研究課題となっている。立体的な工夫を凝らした教材が開発され触知による鑑賞活動が行われているが、その手段が作品鑑賞にどれほどの役割を果たしているかは示されていない。これらのことが、文献資料や美術館職員への調査によりわかった。 そこで、実際に鑑賞者がどのような作品に触覚性を感じるのかを、申請者が所属する大学の学生約10名に宮城県美術館に展示されている作品を、目が見える状態で鑑賞させた。質問紙により、触覚的な印象の強い作品を選ばせ、その根拠を記述させた。その結果、立体的な作品が多く選ばれたことは予測できたことが、平面作品も立体作品に3割程度選ばれていた。この根拠には、被験者である学生が以前に体験したことを想起させる主題であったことや、特定の色彩に対する嗜好など、とても個人的な経験が触覚性を被験者に与えていることが分かった。この予備的な調査により、触覚性には、直接的な感覚「てざわり」のようなものと、「てざわり」から想起される間接的な感覚があり、それらを鑑賞者の言葉・言語から区分すること可能であることを確認した。また、19年度においては、これまでの研究をまとめ検討を重ねるとともに、新たな課題となった鑑賞者(被験者)の意味が不明確な発話を考察していきたいと考えている。
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