本研究の目的は、ダウン症児・者のワーキングメモリはどのような特徴があり、また言語活動にどのような影響を及ぼすのかについて明らかにすることであった。ワーキングメモリの指標として、ワーキングメモリの貯蔵的側面に焦点をあてた非単語復唱課題、言語活動の指標として、理解語彙課題と物語産出課題を実施した。物語産出課題においては、接頭詞、接尾詞、活用形についた付属語も形態素とし、総発話数、延べ語(総形態素)数、異なり語数、延べ語数における異なり語数の比率(異なり語比率)、MLU(平均発話長)を算出した。また、品詞毎に頻度を算出した。変数間の相関係数を算出したところ、MLUと相関関係にあったのは、理解語彙、MA、記憶(非単語)、延べ語数、異なり語数、異なり語比率であった。次に、対象者をMLUに基づき、平均値よりも長い者を「長群(N=9名)」、短い者「短群(N=7名)」にわけ、総発話数、延べ語数、異なり語数、異なり語比率、品詞の種類を比較した。その結果、延べ語数、異なり語数、異なり語比率に1%水準で有意差が認められた。総発話数は差が認められなかった。また、品詞の種類においては、助詞、動詞、副詞、名詞において、1%水準で有意差が認められた。これらの結果より、ダウン症児・者の物語産出課題における発話のMLUは、理解語彙力や精神年齢、非単語の記憶と関連性があることが示された。MLUが長い者は、短い者と発話数は同水準であるものの、延べ語数、異なり語数が短い者よりも多く、品詞においては助詞、動詞、副詞、名詞を多く使用していることが認められた。
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