研究概要 |
本研究では,以下の3点について明らかにした上で総合的に考察し,聾重複障害児のための個別移行支援計画のあり方について提言を行うことを目的とするものである。1)聾重複障害児の専門の施設を中心に,聾重複障害児への対応が良好な施設について,実地調査を行い,コミュニケーション方法の工夫など,聾重複障害者のニーズにあった福祉的就労の支援のあり方について明らかにする。2)聴覚障害者や知的障害者に配慮しつつ一般就労の場を提供しており,比較的障害者の定着率が良い特例子会社の実地調査を行い,聾重複障害者への就労につなげるために必要な条件について検討する。3)「移行支援」の視点から,聾学校高等部における重複障害児の個別の指導計画の作成状況について検討する。 そこで本年度は,まずは聾重複者の卒業後の実態の把握に努めた。具体的には,1)聾重複者の入所施設,作業所,聾重複者がいる作業所での就労実態を把握するため,聾重複児者の家族会や施設への訪問調査(群馬県,宮城県,栃木県,北海道)を行うとともに,2)聾重複障害者の就労を主なテーマとする研究集会(栃木県,埼玉県)に参加し,意見交換を行った。 聾重複障害者の場合,コミュニケーションの確立に困難さがあるため,施設職員により高い専門性が求められること,そして経験を積んだ職員はそうした専門性を発揮していること,その一方で,学校教育の中でコミュニケーション能力について十分に伸ばし切れていない結果として,施設職員への負担がより大きくなっている可能性が伺えた。また,聾重複障害者の施設では,自身が聾者である職員がいる場合が多く,コミュニケーションの確立において,彼らが果たす役割が大きいことも示唆された。
|