申請時に設定した今年度の目標は以下の通りであった。 [1]対称でないKac-Moodyリー代数の表現の幾何学的構成。 [2]対称でないアフィン量子群のレベル0の表現の幾何学的構成(各論)。 当初この計画通りに研究を進めて行く予定だったが、直接表現を幾何学的に構成するには種々の困難があることが判明し、すぐに達成出来るものではないことがわかった。そこでまず結晶基底のレベルで状況を詳しく調べることに目標を変更した。 今申請以前の申請者自身による研究で、対称な場合の結晶基底の幾何学的実現に関しては詳しい状況が明らかになっており、またYoung図形を介した組合せ論的な記述も知られている。特に後者の記述はアルゴリズムがはっきりわかっているという点で計算機実験に乗せられるという利点を持つ。一方代数的なレベルでは、対称でない場合の結晶基底がDynkin図形の畳み込みによって構成できることが知られている。そこでこの方法を幾何学的に応用し、対称でない場合の結晶基底の幾何学的構成を目標とした。 その結果、可解格子模型の研究で用いられるある種の差分方程式の理論を応用することによって、畳み込みで固定されるYoung図形を具体的に求めるためのアルゴリズムを得ることに成功した。さらにそれをquiver多様体の幾何学の言葉に翻訳することにも成功した。 今年度は本申請の初年度ということもあり、計算機実験によるデータの収集を中心に行った。そのため本年度の成果はまだ研究論文という形を取っていないが、次年度以降の研究への大きなステップになったことは間違いない。
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