まず、今年度に行った対外的な研究活動について述べる。今年度は以下の研究集会において講演を行った。 (1)「第9回量子群と代数群の表現論」 (タナベ(株)名古屋研修センター(愛知県春日井郡西春町)、5月) (2)「Representation theory of algebraic groups and quantum groups 06」 (名古屋大学(愛知県名古屋市)、6月) (3)「環論とその周辺」 (名古屋大学(愛知県名古屋市)、11月) (2)に関しては、研究集会の報告集(査読付き)に研究論文を投稿し、現在審査中である。 また(3)に関しては、報告集「環論とその周辺」(査読無し)に量子群の表現論における幾何学的手法に関する解説記事、「箙と量子群」を投稿した。こちらは既に出版済みである。 次に具体的な内容について述べる。昨年度の実績報告書でも述べたが、幾何学的な手法で直接表現を構成するには種々の困難があることがすでに判明している。そのため、前年度に引き続き、今年度も結晶基底のレベルで状況を詳しく調べることに目標を変更して研究を行った。 前年度の研究では結晶基底のYoung図形による表示を用いて、そこにDynkin図形の畳み込みの手法を応用し、対称でない場合の表現の結晶基底を具体的に構成することを試みた。その結果畳み込みで固定されるYoung図形に関する具体的な表示は得られたものの、記述が非常に複雑になってしまうという問題点があった。 具体的な表示が得られても、それを計算するための具体的なアルゴリズムがあまりに複雑では応用上は役に立たない場合もありうる。今年度はこの難点を回復すべく研究を行った。主な困難は、結晶基底のYoung図形による表示がDynkin図形の畳み込みと非常に相性が悪いという点に起因している。結晶基底の具体的な実現の方法に関してはYoung図形によるもの以外にも種々の方法が知られている。申請者は「畳み込みとの相性の良さ」、「幾何学的な翻訳が可能」という観点から、Bernstein-Zelevinski datumと呼ばれる、ある種の整数の組によって結晶基底を記述する方法を採用し、畳み込みとの関係を詳しく調べた。成果はまだ部分的ではあるが、特別な場合に限っては対称でない場合の結晶基底を、より簡易に表示することに成功した。 今年度における研究成果に関しては、次年度以降に発表の予定である。
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