今年度前半は、昨年度に引き続きイデアルの記号ベキについて研究した。昨年度は、判定イデアルを用いて、F-有限な正則局所環のイデアルについてEisenbud-Mazur予想の類似を証明した。今年度は吉田健一氏との共同研究において、乗数イデアルと局所化の可換性をF-有限とは限らない環上で証明し、その応用として昨年度の結果を一般の正則局所環上に拡張した。これはHochster-Hunekeの結果の一般化になっている。この一連の結果を吉田氏との共著のプレプリントGeneralized test ideals and symnolic powersにまとめた。 今年度後半は、有限F-表現型の環の性質を調べた。Smith-van den Berghは、有限表現型の正標数における類似として、有限F-表現型という概念を導入した。有限F-表現型の環は正則環の自然な拡張になっており、Stanley-Reisner環、正規半群環、不変式環などのクラスを含む、正標数の特異点となっている。私は、高橋亮氏との共同研究において、次の2つの性質を証明した。 (1)Gorenstein有限F-表現型の環の局所コホモロジー加群は、高々有限個の随伴素イデアルしか持たない。 (2)次数付き有限F-表現型の環Rとその非零因子fについて、局所化R_fはD_R加群として1/fで生成される。 (1)はHuneke-Sharpの、(2)はArvarezMontaner-Blickle-Lyubeznikの正則環上の結果の拡張になっている。有限F-表現型の環はD-加群の理論と相性が良く、この環上で正則環上のD-加群の理論の類似が成り立つことが期待される。今回の結果はその期待を裏付けるものと言える。
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