本年度は当初の研究計画に基づき、正標数特有の現象が生じる特殊な代数多様体の性質を調べることを目的として、標数2と3のときのみ存在し得る有理準楕円曲面から3次元Calabi-Yau多様体を構成することを試みた。射影直線上において2つの準楕円曲面のファイバー積をとったときに生じる特異点の扱いが問題になるが、標数3においてはクレパントな特異点解消を見つけることができ、この結果非正規な一般ファイバーを持つ滑らかなCalabi-Yau多様体を構成することに成功した。得られた多様体は、有理準楕円曲面が持つHirzebruch曲面としての構造から由来するファイブレーションも持っており、2つの有理準楕円曲面が持つ特異ファイバーのタイプを適当に選ぶことによって、A_2型の有理二重点を持った超特異K3曲面が一般ファイバーとして生じることも明らかになった。多様体にこうしたファイブレーションが入ることは、Bertiniの定理が成り立つ標数0の代数幾何学においては起こり得ない異常な現象であり、きわめて注目すべき構造といえる。以上の結果は、伊藤浩行氏(広島大学)・廣門正行氏(広島市立大学)との共著論文として現在投稿中である。標数2に関してはさらに特異点の状況が複雑で膨大な計算が必要であり、今後詳しく調べていく予定である。 研究にあたっては、国内外の研究者と議論および情報収集を行うことを目的として、研究集会やセミナーに積極的に参加した。具体的には、2005年7月から8月にかけてシアトルで行われた国際研究集会"Summer Institute in Algebraic Geometry"に参加して同分野の研究者と集中的にセミナーを行い、正標数Calabi-Yau多様体についての理解を深めた。また、東北大学や日本大学で行われた研究集会・セミナーにおいて得られた結果を講演し、参加者と活発な議論を行った。このほか、高知大学での研究集会や城崎及び京都のシンポジウムなどにも参加した。
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