本年度は当初の研究計画に基づき、昨年度に引き続いて低標数のときに構成される正標数特有の3次元Calabi-Yau多様体について、特に標数2のケースについて研究を進めた。構成においては射影直線上で2つの有理準楕円曲面のファイバー積をとったときに生じる特異点の扱いが問題になるが、標数2の場合は標数3に比べ、このファイバー積上に存在する特異点の構造がきわめて複雑である。本年度はこの特異点を徹底的に調べて特異点解消の計算を実行し、標数3のケースと同様に非正規な一般ファイバーを持つ滑らかなCalabi-Yau多様体を得た。さらに構成した多様体についてEuler-Poincare標数やBetti数を調べ、有理準楕円曲面の選び方によっては標数0にリフトしないものがいくつか存在することを明らかにした。K3曲面は標数0に必ずリフトすることが知られており、リフト不可能な3次元Calabi-Yau多様体の存在は注目すべき現象である。また得られた多様体には、A_1型の有理二重点を3つ持った超特異K3曲面が一般ファイバーとして生じるようなものもあることも明らかになった。これらの結果については、現在伊藤浩行氏(広島大学)・廣門正行氏(広島市立大学)とともに論文を準備中である。 研究にあたっては国内外の研究者と議論および情報収集を行うことを目的として、研究集会やセミナーに積極的に参加した。具体的には、2006年9月にスウェーデンのMittag-Leffler研究所に1ヶ月間滞在し、セミナーへの出席・講演などを通して正標数の代数多様体についての理解を深めた。また、群馬県の玉原で行われたセミナーや城崎シンポジウム、さらに高知大学で行われた研究集会において講演を行ったほか、越後湯沢や京都で行われた研究集会にも参加し、参加者と活発な議論を行った。
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