近畿大学の大野泰生氏との共同研究に於いて、等号付き多重ゼータ値で知られていた「和公式」及び「巡回和公式」のq-類似が成立することを明らかにした。多重ゼータ値の場合これらの公式は、整数論に於いて最も重要であるリーマンのゼータ函数の正の整数点での値が幾つかの多重ゼータ値の和に分解されるということを示すものであり、大変に興味深いものであった。また、「和公式」の証明には、KZ方程式のq-類似の解を表すq-超幾何級数と呼ばれる特殊関数の特殊値がq-多重ゼータ値を用いて表わされることを利用しており、KZ方程式の接続問題という解析的な手法がq-類似の場合にも有効であることを示している。この結果は日本数学会秋季総合分科会に於いて発表され、結果が纏められた論文は現在投稿中である。 また、筑波大学の竹山美宏氏との共同研究によって、形式的KZ方程式のq-類似を考察し、その原点近傍でとある漸近挙動を示す解を構成した。形式的KZ方程式の研究の基礎となっていたシャッフル代数と呼ばれる代数のq-類似を多重対数函数のq-類似の立場から構成し、その代数構造に関する研究を行なった。 シャッフル代数と多重ゼータ値との関連において最も重要であった「正規化」と呼ばれる操作をq-類似に於いて構成し、形式的方程式のq-類似の解の漸近挙動を代数の言葉で言い換えることにより方程式の原点近傍での望ましい漸近挙動を持つ解を構成した。 KZ方程式のq-類似の特別な例であるq-超幾何級数の場合には接続関係についても良い性質があることが知られており、今回の研究成果は、q-超幾何級数の性質の一般化を与え今後のq-多重ゼータ値の研究の礎となる基本的な結果であると考えられる。
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