『時間周期的に変動する一様電場内での多体量子散乱理論』 標記の研究において、電場の時間平均がゼロでないという条件下で、比電荷(質量と電荷の比)が異なる粒子同土の相互作用が長距離型である場合にも漸近完全性が成立することを証明した。先行する仕事として2001年の私自身によるものがあるが、そこでは上記の相互作用が短距離型であることが本質的であった。今回、エネルギー保存則が破れているこの系の運動を支配する。ニタリー発展作用素に対して有用な伝播評価を直接得ることに成功し、その結果として漸近完全性の証明を得た。この結果はCommunications in Mathematical Physicsに掲載予定の単著論文"Asymptoticcompleteness for N-bodyquantum systems with long-range interactions in a time-periodic electric field"によって公表される。また、N=2の場合にはRAGE theoremを用いた別証明が与えられることがわかり、私の学生であった木村俊之氏と清水良雅氏との共著論文で公表するべく、現在その論文を学術雑誌に投稿している。 『2体Stark Hamiltonianに対する多次元逆散乱問題』 標記の研究において、散乱写像(ポテンシャルと、それを持つ系の散乱作用素を対応させる写像)の単射性を証明した。先行する仕事として1996年のWeder氏、2003年のNicoleau氏によるものがある。ポテンシャルの減衰度をO(|x|^<-ρ>で表すことにすると、Stark効果の下ではρ>1/2のときにポテンシャルは短距離型と呼ばれる。Weder氏はρ>3/4の下でのみ散乱写像の単射性を示したが、短距離型ポテンシャル全般には及ばなかった。Nicoleau氏は条件をρ>1/2に緩めることを試み、空間次元が3以上で、ポテンシャルが十分滑らかな場合にのみ散乱写像の単射性を示した。今回、私の学生である前原克泰氏との共同研究で、ポテンシャルにある程度の特異性を許し、滑らかな部分でもその滑らかさはC^1級に留めた上で、空間次元が2の場合も扱える手法を提示した。また、ポテンシャルに長距離型部分がある場合にも、それから得られる修正散乱写像の単射性を示した。これは新しい結果である。これらの結果はJournal of MathematicalPhysicsに掲載予定の共著論文"On multidimensional inverse scattering for Stark Hamiltonians"によって公表される。
|