研究概要 |
[1.組紐のdilatationの研究]組紐は(i)peridic(ii)reducible(iii)pseudo-Anosov(pA)の3つのタイプに分類できる.力学系と双曲幾何の研究は,pA組紐を経由して互いに密接に結びついている.与えられた組紐がpAであると,そこからある方法で絡み目対応させることによって境界がトーラスの和集合である双曲多様体が得られる.本研究では,pA組紐の性質が双曲多様体の性質に如何に反映するか?を調べることを目標とした.今年度は,これに関して数学的な定式化を与えるまではいかなかったが,コンピュータを用いた数値計算でいくつかの知見を得た.ここで得た予想は,今後,数学的な主張を得る際に重要な役割を担うと確信している.数値計算に基づいて得られた知見は次である: 1.dilatationがある値に収束するようなpA組紐の列は,数値計算によると双曲多様体の体積もまた,ある値に収束している. 2.与えられたpA組紐から,dilatationがいくらでも大きくなるpA組紐の列を構成することができる.数値計算によると,このようなpA組紐の列から得られる双曲多様体の列の体積は,ある値に収束する. [2.組紐や結び目の流体力学への応用に関する研究]流体力学では,流体中の粒子を少ないエネルギーで効率的に混ぜる為には,どのような流体の速度場を与えればよいか?という問題が重要である.平面状の2次元流体については,pA組紐を導く周期軌道の存在性がこの問題において重要な役割を果たすことがP.Boyland, S.Coxまた本研究によって指摘されている.今年度は工学的な応用を目指して,特に3次元流体の粒子混合の研究を力学系やトポロジーの理論を用いて行うことを目標とし,国内外の研究者と研究打ち合わせをすることを予定していた.今年2月には,京都大学で流体国際シンポジウムが開かれたが,それに出席していたS.Coxと,流体のカオス混合におけるpA組紐の役割について議論をした.特に,3次元のカオス混合の研究では,pA組紐に基づいた研究のアプローチは,2次元の場合と異なり技術的な困難が残っていることなどを中心に議論した.組紐を用いた流体の研究を第一線で行っている流体力学研究者と議論することで大いに研究の刺激を受け,今後の本研究の発展に繋がるアイデアを得ることが出来た.
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