研究課題
本年度では、前年度で取り組んだ相転移現象を対象とした研究を継続するとともに、地域経済などの社会現象にも考察の範囲を広げ、以下の3つに要約される成果を得た。1.前年度は物質固有の特性を考慮した固体・液体相転移モデルを構築し、定常状態に現れる自由境界のパターンを具体的に例示した。本年度でもこの活動を継続し、各定常パターンが力学系の中で持つ安定性を幾何学的な観点を交えて考察した。今後はより高度な幾何学的測度論の手法を取り入れるなどして数学モデルを見直し、改良した新しい数学モデルに対しても同様の安定性解析を行いたい。2.ソローモデルとして知られる常微分方程式による数学モデルを参考にして、市町村など比較的細かい地域の経済動向の再現を目的とした、偏微分方程式による数学モデルを構築した。地域経済では場所による経済量(パラメータ)の格差がしばしば重視されるため、相転移現象と同様にパラメータの値の分布によって生じる自由境界が考察の鍵となる。しかし物理現象とは違い、経済現象では実験が行えないばかりか、参考データの量もそれほど多くは期待できないため、本研究のような科学的解釈を伴う動向の予測・制御問題が特に重要となる。ここで扱った数学モデルは、経済量の拡散による平均化を重視して導出され、方程式系には非常に強い非線形性が内在する。このため期間中には「時間局所解の存在」など基礎的な部分の成果しか得ることが出来ず、モデル自体の妥当性の検証なども含め多くの課題が残された。3.上記2で扱った数学モデルを再検討し、導出された改良版のモデルに対して2と同様の考察を試みた。その結果、改良版のモデルには時間大城解か一意的に存在し、更に各解軌道は時間大域的に有界であることもわかった。今後はこの成果を基に、アトラクターを用いた力学系の安定性解析にも取り組みたいと考えている。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (3件)
Discrete Contin. Dyn. Syst. Vol. 15, No. 4
ページ: 1215-1236
Dissipative phase transitions, Series on Advances in Mathematics for Applied Sciences Vol. 71
ページ: 269-288
Free Boundary Problems : Theory and Applications, International Series of Numerical Mathematics Vol. 154
ページ: 403-412