研究概要 |
昨年度に引き続き,超新星爆発の際に形成される原始中性子星からのニュートリノ加熱物質(ニュートリノ風)中における重元素合成の研究を行った。ニュートリノ風では、これまで起源の明らかにされていない速い中性子捕獲元素(鉄より重い元素の大半、例えば、金、銀、プラチナ、ウランなど、質量数100〜200程度)が合成されると推測されている。しかし、超新星の爆発メカニズムが未だに明らかにされていないため、それを実証するのは困難であった。本研究では、原始中性子星の質量やニュートリノ光度等をパラメーターとしたニュートリノ風モデルを用いて元素合成の計算を行い、どのような物理条件においてこれらの重元素が作られるか詳しく調べた。本年度は,特にニュートリノ放射の非一様性や外層との相互作用による定在衝撃波の効果について考察を行った。原始中性子星の回転や対流不安定性から予想されるニュートリノ放射の非一様性を考慮すると一様放射の場合に比べてニュートリノ風のエントロピーが上昇することを示した。その結果,非一様性が強い場合は金のような質量数200程度の核種が合成され得ることを,元素合成の数値計算により示した。また,超音速のニュートリノ風が超新星の外層の存在により減速され亜音速に移行する定在衝撃波の効果を考慮することにより,元素合成の数値計算結果が太陽系の重元素組成を極めてよく再現することを示した。さらに、ニュートリノ風では、速い中性子捕獲元素合成だけでなく速い陽子捕獲反応元素合成が起きることを示した(ニュートリノ誘起陽子捕獲反応過程)。この核反応過程により、これまで謎とされていた陽子過剰同位体のいくつか(モリブデン92,94やルテニウム96,98など)の起源が説明されることを明らかにした。
|