研究概要 |
本研究では、素粒子実験物理学分野での実用化を目指して、窒化ガリウム(GaN)材料による放射線耐性に優れた放射線検出器の開発を行った。まず、従来のGaNエピ基板に比べ、キャリヤ濃度を抑制し、耐圧性の高い高品質基板をベースにし、さらに放射線検出器用として特別なエピ構造を持つ基板を用いて、ショットキーダイオード型の検出器を製作した。この際、素子の性能決定に重要な、ショットキー電極金属種,電極径などの最適化を行った。ショットキー電極については、いくつかの金属(Ni、Au、Pt等)を検討した結果、暗電流やバリヤ高の観点からPtを用いることとした。また、基板のキャリヤ濃度や電気的特性、有感層での荷電粒子(アルファ粒子)のエネルギー損失、それらによる信号対雑音比などを考慮した精密な計算を行い、電極面積(φ0.3-1.0mm)や素子構造を決定した。これら試作器の作製によって、基板から検出器素子完成までの一連の半導体プロセス技術を確立した。製作した検出器の特性では、耐圧が約10V、暗電流密度が約1nA/cm^2で、従来のGaNダイオードに対して報告されていた数10-100μA/cm^2から大きく改善された値となった。この検出器に対して、紫外光を入射し波長分解能を調べたところ、参照用に用いたシリコン(Si)フォトダイオードと同等の性能が得られた。さらに、アルファ粒子(5.4MeV)を入射して特性を調べた。その結果、荷電粒子に対する応答が確認され、放射線検出器としてのGaN材料の有用性が示された。一方、現段階では、電荷収集効率およびエネルギー分解能は参照用のSiフォトダイオードに比べて低いため、今後は、より高品質基板の使用、素子設計の改善等によって性能の向上を図る。また、GaN材料使用の目的である放射線耐性について、系統的に調べて評価を行っていく。
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