本研究では素粒子物理学実験での実用化を目指して、放射線損傷に高い耐性を持つとされる窒化ガリウム(GaN)半導体を用いた放射線検出器の開発を行った。まず、試作を続けてきた半導体検出器の基本素子となるGaNショットキーダイオードに対して、漏れ電流や電流-電圧特性、光感度、波長応答性を調べながら、より高品質な基板の使用や電極材料などの見直しによって特性の改善を図った。その結果、漏れ電流が数10nA/cm^2、耐圧が30V程度の低雑音高耐圧の素子開発に成功した。また、紫外光を用いた光応答性や波長分解能の特性評価においても極めて高い性能を示した。ここでは、従来用いてきたサファイヤ基板上に成膜したGaN基板に代わり、導電性を持つシリコンカーバイド上に成膜したGaN基板を用いた素子を製作し、これによって、粒子検出の有効面積の拡大と素子作製プロセスの簡略化も達成した。この素子に対して150MeV高速電子線を入射して、積算照射量を10^<13>〜10^<16>/cm^2の範囲で変化させたときの漏れ電流の大きさおよび電圧-電流特性の変化から放射線耐性を評価した。シリコン検出器の場合、構造や使用環境によっても異なるが、高速電子線を10^<13>/cm^2以上照射した場合に、顕著な性能の劣化が観られることが報告されているが、本研究では、GaN素子に対して最大10^<16>/cm^2程度の照射を行った場合でも、漏れ電流の増加や耐圧性能の劣化は観測されなかった。このことより、放射線損傷に対してGaNが高い耐性を持つことが裏付けられた。今後の課題として、電子線以外の種々の放射線に対する耐性を総合的に調べることが必要である。 以上の結果から、素粒子実験分野でのGaN検出器の実用可能性が実証された。本研究で得られたGaN素子の製作技術やの諸特性に関する知見は、今後の高品質基板での検出器開発に生かされるものである。
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