研究概要 |
本年度は,液体シンチレーター中に導入したラドンガスを,モレキュラーシーブで吸着分離することが可能かどうかを主に測定した. 吸着物質としてモレキュラーシーブを選択した理由は,モレキュラーシーブが,「分子ふるい」の異名で,代表的な吸着物質として広く一般に知られている点が上げられる.また,その優れた吸着性能の原理が分かっていることも,重要な点であった.その吸着原理は,吸着体がモレキュラーシーブの多孔質に捕獲される事によるものである.そして,その吸着物質は,その多孔質の孔の大きさに見合ったものが,選択的に捕獲されることが分かっている. そこで,モレキュラーシーブとして,孔の径の異なった4つの試料(3A,4A,5A,13X)を用意し,実験を行った. 本実験は液体シンチレーターから放射性重元素を取り除き純化した後,再び,液体シンチレーターとして使用することがその研究目的であるので,まず,モレキュラーシーブと液体シンチレーターの吸着に関して調べた.その結果,液体シンチレーターの構成物質である,PPO,プソイドクメン,ドデカンは,この順に,吸着ポテンシャルが高い事が分かった.しかも,4つの試料で,各々吸着ポテンシャルの大きさも異なることが分かった.これは,モレキュラーシーブの選択吸着性が強く表れた結果であると同時に,吸着物質として,適当なモレキュラーシーブを注意深く選択する必要があることを示唆した結果であった. 次に,これらモレキュラーシーブがラドン(^<222>Rn)及びその娘核種を吸着するか否か,また,吸着する場合の効率を以下の方法で調べた.(1)ラドンを液体シンチレーター中にガスバブリング法で導入,(2)モレキュラーシーブで液体シンチレーターを吸着純化,(3)ラドンの娘核のビスマス,ポロニウムのβ線,α線を光電子増倍管を使用して計数した.(4)純化前後の放射線量から,吸着の効率を算出する. このような方法によって,効率を求めたところ,上記4つのモレキュラーシーブ(3A,4A,5A,13X)で,夫々,40,41,21,30%まで,放射線量が減少することが確かめられた.これは,モレキュラーシーブによって,ラドンガスが吸着された事を示すものであり,吸着という方法で,液体シンチレーターが純化可能であることを示した. また,この結果はモレキュラーシーブは液体中の気体(ラドンはガスである)を吸着する事も同時に示しており,本研究の目的からは離れるが,「液体中から気体を取り除く」という応用分野が拓かれる可能性を示す,興味深い結果である.
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