アップ/ダウンクォークの真空偏極の効果を取り入れた量子色力学(QCD)の格子シミュレーションとその成果物であるQCD真空配位上でのハドロンの関与する物理量の解析を終了させ本論文としてまとめ国際会議の招待講演で報告した。 基本物理量の中でもクォーク反クォーク間のポテンシャルエネルギー、擬スカラー、ベクトル中間子、核子の質量等真空配位の定量的計算に欠かすことのできない数値を計算した結果期待通り真空偏極のない計算(クェンチシミュレーション)に比べ、実験の測定結果に~10%内に近づくという結果を得た。 ストレンジクォークから作られるK中間子からアップ/ダウンクォークから作られるπ中間子への崩壊はクォークのフレーバー対称性を破った過程であり、小林/益川によるCP対称性を破ったクォークフレーバー間の混合に対する理論を定量的な検証と、素粒子の標準模型を越えた物理の探索のために最も有望な物理現象の一つである。 今年度はこのK中間子の崩壊実験の結果から小林/益川のクォークの混合行列を引き出すのに必要不可欠のK中間子に関する電弱相互作用の遷移振幅(行列要素)BKとKl(3)を計算しアップ、ダウンクォークの真空偏極の効果がどのくらい小さいかを調べることに成功し今までクゥエンチ計算で20%程度と見積もられていた系統誤差を大きく(~10%以下)改善した。 その他に、最近計算の手軽さから注目を集めている格子上のクォーク場として異なる二つの理論形式を混ぜて使った場合にどのような病的な振る舞いが起るのかを解析しまたアップクォークとダウンクォークへ電磁場の効果がハドロン物理をどのように変化させるかを計算する新展開を進めている。さらに最近米国ブルックヘブン国立研究所で行なわれたミュー粒子の異常磁気能率の精密実験の結果が標準理論と合致しているかを調べるために磁気能率へのQCDの補正を調べる研究を開始している[10]。またカイラル対称性の量子異常への興味からeta'中間子をカイラル対称性を保った格子フェルミオンを使って調べその結果が共同研究者によって博士論文となりつつある。 予定通りストレンジクォークの真空偏極をも取り入れたカイラル対称性を良く保ったドメインフェルミオンを用いたシミュレーションを開始した。クオティエント力場と名付けたアルゴリズムの改良で従来より10倍弱効率のよい改良が共同研究者によってなされ、格子QCDの最終計算とも言えるシミュレーションが進行している。この計算の最初の本論文を準備中である。
|