平成19年度は、二体系とみなせる不安定な入射核が標的核と衝突した際に起こる三体系の反応過程について、私たちの研究グループで開発した吸収境界条件を利用する方法(ABC法)に、異なる2つのヤコビ座標を導入することで拡張し、当初の目的である核子移行反応も記述できる理論の開発に取り組んだ。具体的には、これまでの問題点を再検討し、また、その関連する試験コードを作成し、数値計算を行った。先に述べた問題点とは、二つのヤコビ座標を採用したことによる波動関数の非直交性のため計算結果の収束が遅い、または収束しないという問題である。再検討の結果、状況によって解が収束する場合もあり、その収束条件を具体的に特定することができればこの問題点を乗り越えられるのではないかという感触を得た。一方、先に述べたような空間に固定した二つのヤコビ座標を用いる代わりに、一つの物体に固定したヤコビ座標を用いて不安定核を入射核とする場合の核融合断面積を計算した。この方法は、一つのヤコビ座標だけを用いるかわりに、二体系の入射核が分解する連続状態に関して、50程度のきわめて高い角運動量まで考慮することにより、核子が標的核の周辺に局在するという状態を記述できるのが特徴である。この方法は化学物理などの他分野において一定の成果を得ている方法論であるが、原子核物理分野においては始まったばかりの段階である。今回、陽子ハローを持つ不安定核を入射核とする場合に適用したところ、核融合断面積が大きくなるという傾向が見られた。現在、この計算結果について解析・検討中である。
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