本研究は、中小質量星の進化の終末期にある漸近巨星分枝(AGB)段階での、ヘリウム殻燃焼の不安定性に起因する熱パルスの発達や遅い中性子捕獲による重元素の合成過程(s過程)が、星の質量や金属量に対してどのような依存性を持つかを解明することを目的としている。今年度は、重元素合成過程を調べるための前段階として、AGB段階の進化による星内部の元素組成分布および温度・密度分布の時間発展をデータベース化した。計算した星は太陽の1〜10倍の質量範囲にあり、金属量(ここでは水素・ヘリウム以外の重い元素の含有量(Z)で表す)は、Z=0(宇宙誕生直後の組成)、0.00001、0.0001、0.02(太陽金属量)とした。その結果、低金属量の小質量星には、熱パルス中にヘリウム対流殻が水素外層の底部を侵蝕するものがあることを示した。また、核反応ネットワークについては、上記の水素外層への侵蝕現象により、対流殻での中性子数密度が10^<11>/ccを超えるため、重元素の合成経路がベータ安定線から中性子過剰側へシフトするので、より中性子過剰な不安定核を考慮したコードを開発した。これにより、中性子数密度が10^<15>/ccという環境での元素合成計算が可能となった。さらに、核データ評価に基づく汎用評価済核データライブラリーであるJENDL-3.3の中性子捕獲反応断面積を核反応ネットワークに高速で入力できるように、温度範囲が1000万〜100億度に対してテーブル形式から解析的な形式へデータを整形し直し、データベース化した。これにより、断面積の呼び出し時間を大幅に短縮できた。さらに他グループから提供されている断面積データも容易に組み込めるようにコードを拡張した。
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