年度初頭は、前年度に製作してBelle検出器に実装したポリエチレン製の中性子遮蔽シールドのプロトタイプの効果を評価した。ビームバックグランドによる検出器内部の放射線ノイズレートをモニターすることにより、シールドによってビームバックグランドが半分に低減していることを確認した。また実際の物理データ(ミューペアイベント)を用いてミュー粒子の測定効率の評価を行い、ビームバックグランド低減により測定効率が10〜20%程度向上していることも確認した。ロシア(モスクワ)で7月に行われた国際会議(ICHEPO6)ではBelle実験による物理解析結果とともに中性子ビームバックグランドの遮蔽がもたらす将来的な効果も報告した。 8月には新たな中性子遮蔽シールドを製作し、検出器の大部分を中性子ビームバックグランドから遮蔽する改造を行った。放射線ノイズレートや物理データを解析し新たに遮蔽を行った箇所でもプロトタイプと同様にノイズレートの低減とミュー粒子の測定効率の増加を確認した。電子・陽電子衝突型加速器実験において、このように中性子遮蔽の方法とそれがもたらす効果を確認したのは世界ではじめてであろう(電子・陽電子加速器実験においては中性子は近年の加速器性能の向上により深刻になったバックグランドである)。この結果もまた、9月末にイタリア(ペルージャ)で行われた国際会議(VERTEX06)において、衝突点付近の検出器とビームバックグランドの現状と対策とともに報告された。 また、検出器をシールドで覆ってしまうと検出器の信号線の取出しが困難になる。カプトンフィルムを使ったフレックスサーキットというものがこのような場合に有用である。その加工精度等の研究も精力的に行った。
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