研究課題
理化学研究所の岩崎先端中間子研究グループによって発見された、ストレンジトライバリオン状態がどのような構造を持っているかを理論的に調べることを目指して、本年度は、以下のような研究を行った。この発見の契機となった、Λ(1405)が反K中間子と核子との束縛状態であるという仮説を、クォーク模型の立場から調べた。Λ(1405)は、ストレンジネスS=-1を持った粒子でありながら、同じスピン・パリティを持った核子の励起状態N(1535)よりも軽い質量を持っている。したがって、Λ(1405)は、何らかの特別な機構によって異常に質量の軽くなった、エキゾチックな粒子であると考えられる。クォーク-クォーク間及びクォーク-反クォーク間に働く相互作用として、現象論的閉じ込めポテンシャル及びカラー磁気相互作用を仮定すると、フレーバSU(3)対称性のもとで、Λ(1405)がいわゆるペンタクォーク状態であるときのカラー磁気相互作用が、全体として同じ量子数を持ったメソンとバリオンの状態におけるカラー磁気相互作用よりも強い引力を与えることが知られている。ただし、これは、フレーバSU(3)対称性という、現実には破れている対称性を仮定した場合の話である。本研究では、フレーバ対称性の破れを正しく考慮し、Λ(1405)がペンタクォーク状態にある場合のエネルギーを、半相対論的な運動エネルギー項と、上に示したようなポテンシャルを含むハミルトニアンのもとで、クォークの5体問題を精密に解くことによって評価した。その結果、Λ(1405)が3つのクォークでできていると仮定した場合に得られる質量よりも、ペンタクォーク状態にあると仮定した場合の質量が軽くなることがわかった。この結果は、Λ(1405)の構造の主要成分が、ペンタクォーク的なものであることを示唆しており、ストレンジトライバリオン状態の精密な構造を調べるための重要な一歩である。
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