本研究では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)で実現する50GeV-15μA陽子ビームの空間分布を測定するビームプロファイルモニタを開発する。ビームライン機器の放射線損傷を低減するため、非接触型のビームモニタが望まれる。これを実現するため、ビームが真空ダクト内を通過した際に残留ガス分子をイオン化して生じる電離電子を電場で収集するプロファイルモニタ(Residual Gas Ionization Profile Monitor : RGIPM)を考案した。J-PARCの遅い取り出しビームラインの真空度は1Pa程度であり、電離電子の電荷分布を直接測定することでプロファイルを測定できる。一方1Paの真空中での電離電子の平均自由行程は約3cmなので、電離電子が電極に到達するまでに残留ガス分子と弾性衝突して拡散が起きるのが問題である。これを解決するため、電場と平行に300ガウス程度の一様磁場を印加する。300ガウスの磁場中では電離電子の運動が約1mmのラーマー半径に抑えられるので、実用上十分な分解能を持つプロファイルモニタを製作することができる。 本年度の4月に空冷電磁石を用いたRGIPMの試作器(電極ギャップ10cm)を製作し、KEKの12GeV陽子シンクロトロン(12GeV-PS)の遅い取り出しビームラインに設置し、ビーム試験を行った。500V/mの電場を印加した状態で磁場を印加すると、期待通り電離電子の拡散が抑制される様子が観測された。観測されたプロファイルは30cm下流にある既存のプロファイルモニタで測定された物とよく一致し、RGIPMの動作原理が実証された。また、8月以降に電極ギャップを20cmに広げた試作器でも試験を行い、良好な結果を得た。 上記の結果をふまえ、機器のコンパクト化をはかるためSrフェライト磁性体を使って永久磁石を製作し、J-PARC用の実証機を製作した。12GeV-PSではビーム強度が0.1μA程度しかないため、東北大学サイクロトロンRIセンター(CYRIC)の50MeV陽子ビームを用いて最大3μAまでのビーム試験を行った。ビーム試験の結果は良好であり、3μAまで線形性を保ちながらプロファイルを測定することができた。 本年度の研究の結果、RGIPMはJ-PARCの大強度陽子ビームでも安定して使用できる確証が得られた。
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