研究概要 |
本研究の目的は、緩和過程に関する現象論を排した枠組みで,有限サイズ系の線形・非線形光学応答を定量的に評価することです。有限サイズ系の標準的理論モデルとして,Nサイト一次元フレンケル励起子系を考察します.一般に,多サイトから成る系の光学応答を考察する際に必要となる連立方程式の数は、サイト数に応じて著しく増大し,定性的性質を議論するには難があるといえます.しかしながら、個々のサイトが独立という特殊な場合には,系の対称性を利用して方程式の数を著しく減らすことができるため、定性的議論に適した見通しの良い解析的な解を得ることができると予想されます。そこで、本年度は,この場合を予備的に考察いたしました. 各サイトが輻射場とフォノン場の2種類の熱浴と結合している状況を想定し,輻射緩和過程(γ_r)・無輻射緩和過程(γ_n)・位相緩和過程(γ_d)の3種類の緩和過程を考慮しました.輻射場の波長は系のサイズと比べて長いために輻射緩和はサイト間で協力的に起こりますが,フォノン場の波長は系のサイズと比べて短いために無輻射緩和・位相緩和は独立に起こります.この点を考慮した緩和項を励起子系を記述するマスター方程式の段階で取り入れて光学応答を計算し,次のような結果を得ました. 線形感受率(χ^<(1)>)に関しては,無輻射緩和レートγ_nと位相緩和レートγ_dとは同等の働きをする.(よって,既存理論のように,無輻射緩和と位相緩和とを区別しないことが正当化される.)一方,三次非線形感受率(χ^<(3)>)の大きさは,γ_nとγ_dの比に劇的に依存する:γ_d【less than or equal】γ_nの場合には,χ^<(3)>は本質的に単独サイトのものと同じであるがγ_d>>Nγ_nの場合には,χ^<(3)>は系のサイズに比例する.この事実は,共鳴付近での非線形光学応答を定量的に理論解析する際,緩和ダイナミクスを量子論的に考慮し慎重に取り扱うことの重要性を示唆している.
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