今年度は、Si基板上に形成したミクロンスケール微細構造の熱緩和過程におけるステップの挙動と、SrTiO_3(001)基板上に走査トンネル顕微鏡(STM)探針を用いて形成した微細構造の緩和過程について研究を行った。 まず、結晶表面上に形成した3次元構造物の緩和過程でのステップの運動のメカニズムを理解するために、Si(001)表面上にリソグラフィーで形成したミクロンスケールのトレンチ構造の熱緩和の様子を調べた。その結果、トレンチのコーナーが丸められる際、トレンチの側壁表面における特異な原子ステップの運動により、側壁表面に広いテラスが形成されることが分かった。この特徴的なステップの振る舞いを理解するために、1次元のステップフローモデルによる解析を行った。その結果、表面拡散によって原子が輸送される場合、側壁表面においてコーナーに向かってステップの運動が起こり、側壁表面に広いテラスが形成されることが明らかとなった。また、トレンチコーナーの変形がさらに進むと、側壁上の拡散流の影響で側壁表面上のステップが複雑に曲げられ、側壁表面にメゾスコピックスケールの凹凸が形成されることが分かった。 もう一つの成果として、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針を用いてSrTiO_3(001)結晶基板上に3次元構造を形成する手法を確立した。本手法を用いて、表面に様々な人工構造を形成し、その熱緩和の様子をSTMでその場観察することに成功した。その結果、SrTiO_3(001)表面の加熱による平坦化が表面拡散によって起こっていることが明らかになった。特に、テラス上の穴が消滅する過程では、ステップ間の引力的相互作用の影響で、反発相互作用のみが働く系と比較して、非常に複雑な緩和の様子を示すことが明らかになった。
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