本研究は、均一サイズの量子ドット間の距離を1nmの精度で制御し、量子ドット問のエネルギー移動過程を光物性の観点から明らかにし、制御することを目的としている。量子ドット間のエネルギー移動を調べる上で、量子ドット間の距離を制御することが非常に重要となる。具体的には、表面処理を施し、負に帯電させた石英基板にカチオン性ポリマーを吸着・製膜後、負の帯電性を有するCdSコロイド量子ドット試料溶液に浸漬し、エネルギーアクセプターとしてのサイズの大きな(固有エネルギーの低い)CdS量子ドット層を形成させた。次に、カチオン性及びアニオン性ポリマーを交互に吸着・堆積させた後、エネルギードナーとしてのサイズの小さな(固有エネルギーの高い)CdS量子ドット層を形成した。このとき電解質ポリマー層の厚さにより、二つの量子ドット層問の距離を1nmの精度で詣聯した。量子ドット層間の距離を0.5nmから20nmの間で系統的に変化させた試料を用いて、ドナー量子ドットの発光減衰プロファイルを測定したところ、層間距離が短くなるほど発光減衰プロファイルが顕著に早くなることを見出した。また層問距離が15nm以上の試料におけるドナー量子ドットの発光減衰プロファイルは、高分子フィルム中に希薄に分散させた試料(エネルギー移動が全く生じない試料)の発光減衰プロファイルと完全に一致した。すなわち、層間距離15nm以下の試料で観測された発光減衰プロファイルの劇的な変化はドナー量子ドットからアクセプター量子ドットへのエネルギー移動によるものであること、さらに層間距離によってエネルギー移動速度を制御できることを明らかにした。
|