本研究は、コヒーレントX線を利用した動的構造研究手法であるX線光子相関分光法を用いて、不規則系の動的構造研究手法の開発とその応用研究を目的としている。第三世代高輝度放射光光源の活用により、X線領域におけるコヒーレント光を利用した物性研究が近年開始されている。X線光子相関分光法は空間的・時間的に乱れた系のゆらぎを研究する上で極めて強力な実験手法となりつつある。しかし、コヒーレント強度、検出器の制約等により適用されている時間領域は必ずしも速いものではない。そこで、本研究では検出システムの基礎的開発を踏まえながら、本測定法のより広範な時間領域、様々な物性系への適用を念頭におきながら研究を進めている。 動的構造研究の応用として、超臨界流体システムにおける動的臨界現象を適用させた。SPring-8の高フラックスビームライン(BL40XU)において、実際に超臨界流体を達成させるための高温高圧試料セルを用いてX線強度相関分光の測定をおこなった。結果として、S/Nが極めて低く、バックグラウンドを適切に取り除くことが不可能であった。したがって、十分な統計精度をもつスペクトルの取得に至らなかった。 一方、X線光子相関分光法による動的臨界現象の研究用に製作した超臨界流体セルを用いて、超臨界流体水のX線ラマン散乱実験をおこなうことができた。実験装置は、SPring-8の電子励起を対象としたX線非弾性ビームライン(台湾ビームライン、BL12XU)を使用した。測定した超臨界流体水のX線ラマンスペクトルからは、これまでに観測されていないほど明瞭な酸素原子k-edgeからのpre-edgeとmain-edge比が確認された。超臨界流体水の水素結合状態についてより定量的な議論が可能となると考えられ、現在、解析を進めている。
|