研究概要 |
平成17年度は,光照射によって誘起される磁壁の運動を観測するための,測定系の構築を主に行なった. 測定は一般的なフェムト秒ポンプ・プローブ分光を拡張したもので,測定系の特徴は以下のとおりである. (1)空間情報の取得には冷却CCDカメラによる撮像を用いる. (2)偏光回転の検出には直交検光子法を用いる. (3)透過配置とし,すべての入射光は検出側の逆側から入射する. (4)外部磁場は,入射側に電磁石を配置し,試料面に垂直に印加する. (5)試料の磁化を初期化するために,加熱源として半導体レーザーの光を試料に入射する. (6)プローブ光の干渉(スペックル)による像の劣化を防ぐため,プローブ光を機械的に振動させ,照明の平均化を行なう. (7)測定は室温で行なう. 本測定系において,希土類・遷移金属合金薄膜を測定試料とした性能評価を行ない,以下のような値を得た. (1)空間分解能,1マイクロメートル以下. (2)時間分解能,約200フェムト秒, (3)偏光検出感度約0.02度. 4)1フレームあたりの測定時間数秒から数十秒. 装置の理論的な限界に近い性能で,総合的に見て世界的にも高い水準の性能を持つといえる. 希土類・遷移金属合金薄膜による測定では,ポンプ光スポットの強度分布において,ある閾値以下の領域では減少した磁化が数百ピコ秒程度で元の状態に回復するのに対し,閾値を超えた強度の領域では,パルス幅程度(約200フェムト秒)の時間で磁化の消失が起こる様子が観測された.これは,磁場を印加した状態での光磁気記録(熱磁気記録)に,記録時間の限界が存在することを示している.
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