Zn不純物を置換した高温超伝導体La_<2-x>Sr_xCuO_4(LSCO)の角度分解光電子分光(ARPES)を行い、準粒子の不純物による影響を調べた。平均自由行程の逆数に対応する準粒子のMDC幅は不純物置換によってフェルミ面上の各方向でほぼ同じ程度の増加が観測された。増加の程度は電気抵抗率の増加から予想されるよりも大きく、不純物散乱の性質はユニタリティー極限に近いものと示唆される。 LSCOのフェルミ面形状の組成依存性について詳細に調べた。フェルミ面の面積は希薄ドープ領域から過剰ドープ領域に至るまでLuttinger総和則から予想される値とほぼ一致していた。この結果は、Luttinger総和則が大きく破れているNa-doped Ca_2CuO_2Cl_2のARPESの実験結果や理論計算の予言と対照的な結果である。このことから少なくともモット絶縁体からホールドープによって超伝導体へ電子状態が形成には少なくとも2種類の過程があることが示唆される。 電子ドープ系高温超伝導体ではランタノイドサイトの違いによって超伝導転移温度T_cが系統的に変化する。Sm_<2-x>Ce_xCuO_4(SCCO)(x=0.15)の角度分解光電子分光を行い、フェルミ準位近傍の電子状態を調べ、Nd_<2-x>Ce_xCuO_4(NCCO)(x=0.15)のARPESの実験結果と比較を行った。SCCOでは対角方向でエネルギー分散に明瞭なkink構造が観測された。SCCOでは対角方向にエネルギーギャップが観測され、NCCOに比べて反強磁性相関が強いと示唆される。SCCOがNCCOよりも低いT_cをもつ原因は、強い反強磁性相関によってエネルギーギャップが対角方向で開くからと考えられる。
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