研究概要 |
本研究では光合成タンパク質を電子移動、分子進化の理想的実験室系としてとらえ反応機構の解明をESR法により行う。光合成反応中心ではクロロフィル分子上での電荷分離により生じた電子を高速に光合成膜反対側まで移動させることにより膜の中外に電子-ホール対を生成する。その際の電子移動はピコ秒の間に30-50Åにおよぶ。この短時間での安定した長距離移動はタンパク質特有の機能である。長距離移動は実際にはクロロフフィル分子やキノンなど3,4種の分子を介して行われとり、個々の分子はよく研究されている。光合成系は隣接タンパク質影響は考慮する必要がないため孤立系の最適な実験室系となっている。電荷分離直後に生成するホールー電子対では合計スピンはゼロである。しかし数十ナノ秒間残る電子相関のために両スピンは合計スピンS=0、1を形成するが、初期状態がS=0の偏向した分布のために異常なスピン温度を示し、特徴あるESR信号として観測される。スピン相関信号は波動関数の干渉項によって記述され、電子移動の軌跡や電子移動の状態を記述することに適している。当研究ではこれら電子移動の様子を時間分解パルスESR法に新たな手法を加えて追跡、解析することを主眼においている。本年度、設備の改良を行い当該研究遂行のための環境を整えた。同時に、光化学系Iの電子移動成分の測定、詳細な構造の検討を行っている。また、ホマダイマーバクテリア反応中心を用いて電子移動に関する新しい研究結果を得ている。次年度では得られた結果を発展させる。
|