研究概要 |
今年度に得られた研究成果は以下のものである. 1.Caサイトを希土類元素(RE)イオンで全置換し,フラックス法により希薄ホール濃度Bi2212単結晶を作製した.その電気伝導特性を複素誘電率測定から評価したところ,誘電損失スペクトルには僅かな直流電気伝導度成分に加え低周波で誘電分極成分をもつこと,つまり誘電緩和現象が生じていることが明らかになった.これは同物質の電気輸送特性において,化学的な要因による波動関数の乱れが重要な役割を担っていることを示す。さらに複素インピーダンス解析からは,同試料に含まれるREイオン種に大きく依存した不均一電子状態異常を見出すことに成功した.次年度も引き続き系統的な測定を行い,この異常な電子状態の特徴を明らかにする予定である. 2.希薄キャリア濃度試料の局所電子状態を調べるために,走査型ケルビンプローブ顕微鏡(SKM)の製作を開始した.今年度は,まずSKMの基本形である走査型トンネル顕微鏡(STM)の構築を目指し,トンネル電流を計測するヘッド部分と,低温での測定を可能にするクライオスタット装置とを設計・作製した.また,併せて制御装置の整備を行った. 3.Bi2212との比較を目的として,YBCO単結晶の低温STM測定を行った.低温破断により準備した,表面が低ホール濃度のYBCO試料において,幾つかの銅酸化物でその重要性が指摘されているチェッカーボード型の不均一電子状態の観測に成功した.この成果は,チェッカーボード型の電子状態がキャリアドープしたモット絶縁体に現れるひとつの典型であることを意味する.Bi2212を含め,他物質との類似点・相違点を引き続き検証したい.
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