本研究の目的は、銅酸化物高温超伝導体であるLa_<2-x>Sr_xCuO_4の磁気励起の偏極性を、偏極中性子散乱実験の手法を用いて調べることにより、超伝導体に特有の「砂時計型」と呼ばれる磁気励起の起源を探ることである。平成17年度において、本科学研究費補助金より、単結晶育成に必要な高温電気炉、原料試薬などを購入し、x=0.08の単結晶を移動浮遊帯域法により作成した。これと、トロント大学在籍中に育成した結晶とを合わせ、約1.5ccの単結晶を用いて、偏極中性子散乱実験を行った。結果、6meV程度までの低エネルギーでは、スピンの揺らぎはほぼ完全に等方的であり、特定の揺らぎ成分にギャップが生じることは無かった。超伝導を担うCuO_2面内にスピンがストライプ的に秩序化した状態が基底状態であると考えられるが、このように低エネルギーにおいて等方的な揺らぎを持つことは興味深い新事実である。さらに、銅酸化物高温超伝導体の磁気励起による中性子散乱強度が弱いために、偏極実験は皆無であったが、本実験において、測定可能であることが示された。今後の計画として、今回測定したx=0.08よりもより強固なストライプ磁気秩序をもつx=0.12において測定を行い、低エネルギー磁気励起が動的ストライプによるものか検証する。上記の研究に加え、磁気励起の起源を調べる観点から磁場中での磁気励起の中性子散乱測定を、アメリカ標準技術研究所で行い、これまで提唱されてきたスピン量子相転移を裏付ける結果が得られた。以上の結果を3月アメリカボルチモアで行われたアメリカ物理学会にて報告した。
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