本研究の目的は、銅酸化物高温超伝導体であるLa_<2-x>Sr_xCuO_4の磁気励起の偏極性を、偏極中性子散乱実験の手法を用いて調べることにより、超伝導体に特有の「砂時計型」と呼ばれる磁気励起の起源を探ることである。平成17年度の研究で、低濃度領域の超伝導試料であり、また弱いストライプ秩序しか示さないx=0.08について偏極中性子散乱実験を行い、6meV付近の低エネルギー磁気揺らぎは完全に等方的であることを示した。平成18年度は非常に強固なストライプ秩序を持つLa_<1.875>Ba_<0.125>CuO_4の単結晶試料を用いて、偏極中性子散乱実験を行った。実験は日本原子力研究開発機構の実験用原子炉JRR-3Mに設置された3軸型中性子分光器TAS-1に、鉛直・水平の両方向に集光したホイスラーモノクロメータとアナライザーを使用して行った。La_<1.875>Ba_<0.125>CuO_4の試料では10Kでストライプ構造に起因する格子非整合弾性散乱ピークが観測され、偏極解析により秩序化したCu^<2+>スピンはCuO_2面内に寝ていることを確認した。偏極中性子非弾性散乱実験では4meVのエネルギーでスピンが面内にのみ揺らいでいることを観測した。この異方性はストライプ秩序温度を大きく上回る200K付近でも確認された。以上の結果から、「砂時計型」磁気励起の低エネルギー部分はストライプの影響を強く受けていることを明らかにした。以上の結果は3月の日本物理学会春季大会(鹿児島)で発表された。
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