本研究課題において遂行してきたスピネル酸化物系に関する研究成果をまとめて、2つの国際ワークショップで成果発表を行った。研究分野の近い参加者との緊密な議論を行い、今後の理論および実験研究の展開について、例えば具体的には擬2次元酸化物系への応用展開などの新しい視点を得ることが出来た。 また、こうしたt_<2g>電子系における研究で得た知見を活かして、他の強相関フラストレート系にも視野を広げて研究を展開した。具体的には擬1次元や擬2次元的な電子構造をもつ分子性固体の示す新奇物性に関する研究を行った。まず、擬2次元系であるθ-ET塩の示す奇妙な電荷揺らぎに関して、昨年度からの研究を発展させ、電荷と格子歪みの結合を含んだ拡張ハバードモデルに対する計算を行い、その結果、電荷揺らぎの共存の起源について新しいシナリオを提案した。このシナリオは、異なる電荷秩序パターンの競合によるドメイン形成という従来考えられてきたシナリオとは全く異なるもので、これまで理解の難しかった電荷揺らぎの温度依存性をも含めた統一的な理解を与えるものとなっている。この結果はPhysical Review Lettersに掲載された。また、擬1次元系DI-DCNQI_2Agにおいて最近X線散乱実験によって見出された新奇な電荷・格子秩序の混合状態の起源を理論的に理解する目的で、この物質の複雑な3次元フラストレート構造を考慮した電荷・格子結合拡張ハバードモデルの解析を行なった。その結果、この混合秩序状態の安定化には、1次元鎖間のスパイラル的なフラストレーションと、それによる電荷・格子自由度の競合が本質的であることを明らかにした。この計算結果から、秩序相内において格子歪みが急速に成長する特徴的な温度スケールの存在が示唆されることから、伝導率や誘電率などに見られていた奇妙な振る舞いに対する包括的な理解が得られる可能性を議論した。
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