研究概要 |
渦を用いた飛翔機構について、前年度の研究成果を踏まえたうえで、自由飛翔の飛行モードを分岐論的な観点から解析した。具体的な実績は以下の通りである。 前年度開発したCIPプログラムを用いて多くの昆虫に見られる水平はばたき運動により飛行する水平はばたきモデルを計算し、以下の結果を得た。 1)前年度行った対称はばたきモデルの解析結果との比較を行った。その結果、これらのモデルはレイノルズ数やはばたき運動が全く異なるにも関わらず、非常によく似た分岐構造を示すことが分かった。これは渦を用いた飛翔機構の普遍性を示唆する重要な結果である。 2)水平はばたきモデルの分岐構造を解析した結果、双安定領域が存在する事が分かった。双安定状態そのものは対称はばたきモデルでも観測されているが、ここでみられる2つの安定状態は、重心運動の揺らぎや周囲の渦構造が互いに全く異なるものであり、本質的に異なる飛翔モードが共存しているという点が対称はばたきモデルと異なる。この結果は、非常に簡単なモデルを用いて飛翔モードの存在、共存を示したという点で重要である。 3)双安定構造を理解する為に、「拡張された準定常近似」という仮説を提案し、その仮説に基づく解析を行った。また航空力学的近似による解析とも比較した。その結果、双安定構造は本質的に渦構造の存在に起因する非線形構造により規定されていることがわかった。同時に不安定な定常飛行状態を示唆する結果を得た。 4)3)で行った解析と自由飛翔の場合を比較して、分岐構造は定性的に同じだが、臨界点は定量的に大きなずれを示す事が分かった。これは自由飛翔に基づく重心変動と関係があると思われる。 5)モデルと実際の昆虫を比較した。その結果アオスジアゲハのパラメータが典型的には計算に用いたパラメータに近い事が分かった。またショウジョウバエの羽の運動とモデルの計算結果が定性的に似ている事が分かった。 これらの結果に関連して、米国で11月に行われた米国物理学会で講演を行った。他に国際会議3件,また国内会議、セミナー等で8件の発表を行っている。
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