今年度は上記研究計画に基づき、以下のように、1次元量子系における輸送特性および動的性質に関する研究を遂行した。 1次元量子系における動的性質に関連して、スピン-1/2ハイゼンベルクXXZ鎖に関する動的相関関数の研究を行った.この模型はH.Betheが1931年に基底状態エネルギーの厳密評価を行なって以来、低次元量子磁性を記述するプロトタイプの模型として、また、数理物理的な対象として深く研究されてきた.ところが、相関関数の厳密評価は困難を極めている.特に系の動的な性質を評価する上で重要な、有限温度での時間依存する相関関数に関しては数値的な解析をもってしても困難である。 我々は、量子逆散乱問題の解および、量子転送行列法を組み合わせることによって、この模型の任意の温度・磁場における動的スピン-スピン相関関数を多重積分表示で表現することに成功した。多重積分の評価自体は今後の課題であるが、この成果は、厳密解を利用して、1次元量子系の動的性質を知る上での基本的な足がかりになると考えられる。
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