2次元全角運動量ゼロの場合の古典クーロン三体問題について研究を行った。この問題設定では、全位相空間の次元は5であるため、位相空間の探索をくまなく行うのはほぼ絶望的である。その代わりに、三体衝突多様体の中心部分にあたる自由落下初期値空間に限ってそのダイナミクスを明らかにするために解析的および数値的研究を行った。主に考えた系はヘリウム原子、水素負イオン、リチウム正イオンである。解析的な研究としては三体衝突多様体の構成をし、不動点の安定性を調べた。三体衝突多様体は天体系のそれとは異なり、クーロン系特有の性質(電子間の反発)がダイナミクスに効いていることが理解された。数値的研究として、三体衝突多様体との関係を考えながら、まず先行研究の追試を行い、三体衝突多様体上のフローの性質を確かめた。それから、自由落下問題において終状態が電子1或いは電子2エスケープのどちらによっているのか初期値空間を色分けすることで、系の持つフラクタル的構造を明らかにした。また、二体衝突軌道の位置を初期値空間で特定することで、先に得られた終状態について見られたフラクタル的幾何学的構造が二体衝突軌道によって説明がつくことが明らかになった。特筆すべき成果は、このフラクタル構造が水素負イオンに関しては、二進数によって完全に特徴づけが出来ることが分かった。そして、ヘリウム原子、水素負イオン、リチウム正イオン間でのダイナミクスの違いについても知見が得られた。このように二体衝突軌道がこの問題においてダイナミクスを調べるために必要な基本的な力学構成要素となっていることを明らかにすることが出来た。将来的には、自由落下初期値空間から離れたところでも二体衝突軌道がどれだけダイナミクスを記述しているのか明らかにすることが必要であり、更には2次元全角運動量ゼロのダイナミクスに対応した記号力学を見つける足がかりを提示することが目標である。
|