研究概要 |
2次元全角運動量ゼロの場合のクーロン三体問題における衝突軌道と周期軌道の関係について研究した。主に対象としたのはヘリウム原子である。昨年度の研究において、初期速度ゼロで出発するダイナミクスにおける二体衝突軌道の構造を初期値空間で特定した。この結果は、本年度、論文として発表した。本年度はこれらの結果を元に、周期軌道を求めることを行った。周期軌道の情報は、半古典量子化をおこなうどきに必要となるため、重要である。初期速度ゼロで出発するダイナミクスに現れる周期軌道は自分自身をなぞる軌道(self-retarcing orbit)である。その軌道には、必ず速度がゼロとなる瞬間があり、かつ,その状態に戻ってくる。二体衝突軌道にはこのself-retracing orbitが含まれる。したがって、初期値空間における二体衝突軌道のつくる曲線上に周期軌道が存在する可能性がある。この事実を確かめるべく、数値計算を用いて二体衝突する周期軌道を求めた。その結果、数は少ないが、二体衝突する周期軌道だけでなく、二体衝突しない周期軌道をも求めることができた。ここで求めた周期軌道は先行研究で得られていた一次元系での周期軌道やfrozen planetary orbitではない。全く新しい周期軌道である。求められた周期軌道のうち、ある周期軌道の族には、規則性があることが分かった。その規則性は、少しずつイオン化に向かうような周期軌道の族であることで、特徴的なことは、作用の値が一つの電子が原子核にトラップされる回数(或いは時間)に比例することである。この規則性を使って、やや荒っぽい周期軌道量子化を行ったところ、Rydberg準位が得られた。周期軌道を多数求めて、より精緻な計算を行えば(例えば、cycle expansion)、ヘリウム原子のエネルギースペクトルの特徴付けに良く使われる量子欠損をも計算できるようになると思われる。したがって、更にエネルギースペクトルを半古典的に求めるには周期軌道を数多く求めることが今後の課題となる。そして、求められた周期軌道がどのようにエネルギースペクトルに埋め込まれているのかを調べることも必要となる。
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