本研究の目的は、シングルサイトコヒーレントポテンシャル近似(シングルサイトCPA)を超えてスピントロニクス材料の電子輸送特性を第一原理から計算することである。本年度はスピントロニクス材料設計でやはり非常に重要な希薄磁性半導体中の磁性不純物間の磁気的相互作用について、局所環境効果を取り入れた計算を行った。シングルサイトCPAで計算した有効媒質中に数十原子を含むクラスターを考えその中に磁性不純物をランダムに配置し局所的環境効果を取り入れる(クラスター法)。この方法により磁気的相互作用の計算については、シングルサイトCPAに基づく方法(Liechtensteinら)を超えた取り扱いが可能となった。その結果以下のことが明らかになった。 (1)liechtensteinの方法では完全に計算されていない不純物間の電子の多重散乱により、特に第一近接原子間の磁気的相互作用の大きさがLiechtensteinの方法による値からかなり大きく変わる。この効果はグリーン関数の減衰を反映して遠距離では急速に小さくなる(特に高濃度の時)。 (2)局所環境効果は非常に大きく、不純物の配置によって磁気的相互作用は大きくばらつき、符号を変える場合もある。 3)磁気的相互作用は不純物配置に大きく依存するが、配置平均はCPAでかなりよく計算さている。ただしこのときも電子の多重散乱を計算に取り入れていることが必要で、Liechtensteinの方法で計算した磁気的相互作用は不純物は位置に依存した磁気相互作用の配置平均とはならない。 次年度はこの方法により計算した磁気的相互作用を用いてより高精度のキュリー温度計算を行うこと、またこのクラスター法を電子輸送特性に応用することを行う予定である。
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