本年度の研究実績は以下の通りである。 1.量子場の理論ではボース・アインシュタイン凝縮を大域的位相変換対称性の自発的破れとして定式化し、凝縮体はある定まった位相を持つ秩序変数で記述される。無限に広い系では、異なった位相を持つ秩序変数に属する真空がユニタリー非同値になることが示されており、このためにそれらの真空の重ね合わせが禁止され、秩序変数がある定まった位相を持つことが保証される。一方で、磁気トラップで捕獲された中性原子ボース・アインシュタイン凝縮の実験でも凝縮体が定まった位相を持つことが凝縮体の干渉実験で確かめられている。しかし、これまで、無限に広い系では真空のユニタリー非同値性が証明されていたが、トラップされたボース気体系では証明されていなかった。我々は磁気トラップが存在する系においてもそれらの真空がユニタリー非同値になることを示した。論文にて発表。 2.量子場の理論において、量子・熱補正を評価する際、系の対称性から導かれる関係式等を破らないように注意して計算する必要がある。この関係式は近似の妥当性を確かめるのに用いられる。希薄ボース気体の量子場の理論において、大域的位相変換対称性から、フーゲンホルツ・パインズの関係式と呼ばれる、化学ポテンシャルと自己エネルギー項を非摂動的に関係付ける恒等式が得られる。この関係式はこれまで無限に広い系でのみ得られていたが、我々はそれを周期境界条件を課した有限体積の箱の系に拡張した。論文にて発表。 3.磁気トラップ中の中性原子ボース・アインシュタイン凝縮において、量子場の正準交換関係を保つため、また、理論の対称性を保つためにゼロ・モードの存在が要求されるが、その存在は未だ実験で確かめられていない。我々は、ゼロ・モードが集団励起運動の振動数に及ぼす影響を評価したが、現在の実験技術で観測されるような影響はない事がわかった。論文にて発表。
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