研究概要 |
計算機シミュレーションによって液体の動的振る舞いを調べる方法として2つの方法がよく用いられる.1つは分子動力学法である.これは原子・分子の間に働く力をもとにNewton方程式を解くという微視的な立場からの方法である.もう1つは流体力学計算であり,これは流体の粘性率や熱伝導率などの輸送係数により系を特徴づけ,Navier-Stokes方程式を解くという巨視的な立場からの方法である.これら2つの方法が同じ結果を与えるのか?あるいはどのくらい小さな系では流体力学的な扱いが破綻し,分子動力学的な取り扱いをしなければならないのか?という問題がある.これらの問題を解決するために両者の比較をする研究がこれまで多くあったが,その多くは定常状態のものであり,非定常状態での研究はされていなかった. そこで本研究では,非定常状態における熱伝導の分子動力学シミュレーションと流体力学計算を行い両者の比較を行った.まず,初期温度が異なる2つの層からなるレナード・ジョーンズ流体の非平衡定常系を用意した.その後,温度,密度等の緩和過程を観察した.流体力学計算をする際には,まず分子動力学シミュレーションにより輸送係数を計算し,これをNavier-Stokes方程式を解くのに用いた.その結果,2つの方法による温度,密度,圧力,ポテンシャルエネルギー,流速は空間的にも,時間的にもよく一致することがわかった.このことは数原子程度の小さい系における非定常現象でも流体力学的な記述が信頼できることを示している.
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