私はマルチバーリック・マルチサーマル分子動力学法を開発した。この方法は自由エネルギー極小値に引っかかることなく、従来の定温定圧法より広い範囲の構造空間をサンプルできる。マルチバーリック・マルチサーマル分子動力学法を水中のアラニンジペプチドに適用した。これまで分子シミュレーションでは各状態間の部分モルエンタルピー差、部分モル体積差を計算することはできなかったが、私はマルチバーリック・マルチサーマル法を用いて構造の温度・圧力依存性を調べることによりこれを可能にした。その結果はラマン散乱実験の結果と良く一致した。 またカノニカルアンサンブル、定温定圧アンサンブルにおける剛体分子のシンプレクティック分子動力学法を開発した。このシンプレクティック分子動力学法を用いるとハミルトニアンに近い保存量が存在する。そのため従来の非シンプレクティック解法よりも安定にシミュレーションをおこなうことができる。 さらに分子動力学法と流体力学計算の比較もおこなった。小さい系では密度などいくつかの物理量については両者が一致しないことをみつけた。こうして流体力学計算が有効な大きさの系から流体力学計算が破綻する系まで系統的に調べ、流体力学が適用できる大きさの限界を明らかにした。
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