本研究の目的は、多価イオン照射により磁性体表面から放出される2次電子のエネルギーとスピンを測定することであり、平成17年度はその基幹計測器となるモット型電子スピン分析器を設計、製作、試験した。モット型分析器は、入射した電子を数10keV程度に加速した後に金やトリウムなどの薄膜に入射し、散乱電子角度分布の非対称性から入射電子のスピンを分析するものであり、単純な原理と構造を有し、スピン分析器として広く定着している。モット型分析器には市販の物も存在するが、本研究では予算上の理由もあり、研究代表者の有する荷電粒子操作の経験を活かし、自作により分析器を立ち上げた。 立ち上げた分析器の仕様として、まず分析器全体を小型にするため、電子の加速電圧は40kVとした。また、多重散乱電子や非弾性散乱電子を取り除きより精度の高いスピン分析を行うために、散乱電子の検出器にはエネルギー分析の可能な固体検出器を用いた。 分析器の評価実験として、まずは無偏極電子を入射した場合の散乱電子数の非対称性を測定した。無偏極電子を入射した場合、理想的な装置では散乱電子数に非対称性は生じないが、検出器配置の非対称性、検出器感度の非一様性、などから実際には有限の非対称性を生じる。その非対称性がどの程度であるか、またその再現性は良いか、入射電子の入射角度依存性などはないか、などを装置の特性として調べ、もしそれらに問題があるようであれば、最悪の場合、分析器自身の改造を行う必要がある。現在は、これらの性能評価を進めている段階であり、今後偏極電子線入射による効率の測定などを経た後に、平成18年度は、多価イオン-固体衝突における二次電子のスピン分析実験に進む予定である。
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