量子鍵配送の無条件安全性を証明する一般的な方法として、不確定性関係を利用する新しい手法を構築した。この方法は、従来よく用いられているエンタングルメント抽出に基づく証明法が適用できるケースには全て有効であるばかりでなく、次のような利点をもつ。(1)量子エラー訂正符号を構成して秘密鍵を算出する必要がなく、古典的なエラー訂正と秘匿性増幅で秘密鍵を計算できる。(2)エンタングルメント抽出に基づく方法よりも、秘密鍵を多く取り出せるケースがある。(3)送受信装置の特性がよく把握できていない場合にも安全性が証明できる。例えば、BB84方式において、光源の特性がほとんど不明であっても、2つの基底を切り替えたときの光の状態がどのくらい近いかを表すフィデリティという量の下限だけ与えられれば、安全性を保証できる。 この方法の応用例として、SARG04方式の無条件安全性を証明し、鍵レートが通信路の透過率(損失を1から減じたもの)の1.5乗に比例することを見出した。BB84方式では、もともと単一光子の利用が前提とされており、その場合の鍵レートは、通信距離が伸びて透過率が低下した際に単純に透過率に比例して低下する。しかし、この光源を、微弱なレーザーパルスで代用すると、光子分離攻撃の可能性を考慮する必要性から、レートは透過率の2乗に比例して低下しまう。この問題を、量子通信装置自体には全く改変を加えることなく、単にデータ処理法を変更するだけで改善できると期待されている方法がSARG04方式である。この方式の安全性については、盗聴法を限定した場合や、装置を複雑にした別の似た方式などで議論されてきたが、今回はじめて完全な証明を与えることができた。 その他、連続量量子暗号の盗聴法の解析や、干渉計の微調整なしで光子の偏光状態を送信する方法の提案などを行った。
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