量子暗号の無条件安全性の証明は、理想的な単一光子光源と単一光子検出器を用いる状況に帰着できることを仮定する場合が多いが、実際の光源、検出器は、そのような帰着を厳密には許さない。従って、現実的な装置である、微弱レーザー光と、しきい値型光子検出器(光子の到着のみを検出し、光子の個数は峻別できない)を用いて、理想的な装置の場合に比べてそれほど遜色ない鍵生成率が得られることを厳密に証明することは、量子暗号の大きな目標の一つであった。昨年までに提案した新しい証明法を、BB84デコイ方式に適用することにより、本年度はその目標をはじめて達成した。 微弱レーザー光を用いる前述の方式では、単一光子光源を用いた場合に比べると到達距離が数十km短くなってしまう。パラメトリック光子対光源と光子検出器を用いた擬似単一光子では、単一光子光源と同じ距離に到達できるが、鍵生成率が非常に小さいという欠点がある。本年度は、後者の光源を用いた方式において、従来無視されていた、光子検出器が光子を検出しなかった場合に着目し、このデータを活用することで、実験装置に変更を加えることなく鍵生成率を何桁も向上できる方法を提案した。 光ファイバーの屈折率ゆらぎにともなう雑音を解消する方法として、送信者と受信者の間で細かい調整を必要としない方法を昨年度に提案した。補助光子を用いるこの方法は、通信が一方向のみであるため、双方向の通信を用いる従来の方式に比べ、量子暗号の安全性が確保しやすい。本年度は、この手法の原理実証実験を行い、95%を超える高い忠実度で伝送が可能であることを示した。
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