本年度は、中性フェルミ原子気体の超流動状態及びその物性についての理論的研究を行った。2成分からなるフェルミ気体系は、フェルミ縮退温度よりも十分低い温度において超流動相へ転移する。BCS理論によると、2成分の粒子数比が等しい場合にその転移温度が最大となることが指摘されている。我々は、その成分比が非対称な場合において空間的に振動するクーパー対状態が実現することを見いだした。これは、1960年代に超伝導体においてその存在が理論的に予言されたFFLO状態である。この特異な対状態は最初の予言以来40年間ほど様々な物理分野で安定性及びその物性に関する研究が行われてきたが、現在までその存在に関する明確な実験的確証は得られていない。我々は微視的理論に基づく数値計算を行い、その結果として、FFLO対状態でのみ見られる特異な準粒子の低エネルギー状態を見いだした。得られた結果はFFLO対の位相幾何学的な性質にのみ依存しており、系の詳細に依存しないため、中性原子だけでなく様々な物理分野でのFFLO研究に対して重要な知見を与えた。加えて、X線回折及び中性子散乱等の実験を行うことでその特異な準粒子状態を観測することでき、FFLO状態の観測のための確証となり得ることを示した。 また、中性ボース気体における超流動相の物性研究を行った。アルカリ原子の持つ超微細スピン自由度を生かしたままボース凝縮相転移が実験的に実現されている。我々は、これまでにスピン1の自由度を持つ系の回転超流動状態について研究してきた。この結果を基盤として、スピン2の自由度を持つ回転ボース凝縮体の基底状態に関する理論的研究を行った。スピン2の系は強磁性・反強磁性相に加えて、サイクリック相という新奇な磁性相を持つことが知られている。我々はこの磁性相において新たな量子渦状態を見いだした。一連の系統的研究により得られた量子渦状態を実験的に観測することで、スピン自由度を持つ系の磁性について特定できるものと期待する
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