本年度は電荷密度波(CDW)の量子コヒーレンス実証を目指した予備実験と、CDW量子ビット間の結合の評価・制御の基礎となるCDW接合の理論の構築を以下のとおり実施した。 (1)比較的物性が良く分かっている典型的なCDW物質であるブルーブロンズの電気伝導測定を行い、測定系の構築・検証を行った。電極作成の工夫と共に、冷却温度の安定化、測定条件の見直し等を行い、17K付近で文献値と合致する安定した電流電圧特性が測定可能となった。この測定系を用いて、量子情報の担い手となるCDW中の位相転位の形成を確認することを目的として、CDW中の一次元原子鎖に垂直な方向に対する電流電圧特性の測定を行った。結果として、位相転位の形成を示唆する抵抗値の増大を観測した。この結果を踏まえ来年度は、位相転位形成によって誘起される誘導電圧の測定を行うと共に、本研究のターゲット物質であるNbS_3結晶を用いて測定系の最適化を進めて行きたい。 (2)超伝導接合の理論を拡張することにより、一次元モデルの範囲内で、CDW中の準粒子の運動を記述するGreen関数の構成法を確立した。我々の構成法は、散乱状態の波動関数を出発点としているため、界面による多重散乱の効果が全て取り込まれており、多数個の界面を有する多重接合系にも容易に適用可能という利点を有する。この理論を厚さの無視できる単一界面で隔てられたCDW接合の問題に適用し、界面がCDWに及ぼすピン止め力を評価した。その結果、接合界面付近に形成される束縛状態が、ピン止め力-位相特性に大きく寄与する事が分かった。来年度は、鎖間の準粒子ホッピングを考慮してGreen関数構成法の一般化・精密化を行うと共に、上記の界面束縛状態の詳細を明らかにし、量子ビット間の結合とその制御について検討を進めて行きたい。
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