本年度は電荷密度波(CDW)の量子コヒーレンス実証を目指したCDW接合系に関する予備実験を以下のとおり実施した。 (1)昨年度構築した測定系の最適化と性能検証を進めたところ、この装置構成では冷却温度の安定性に限界があり、量子コヒーレンス観測には性能が不十分であることが判明した。そこで、新たに液体窒素デュアを用いたクライオスタットの設計・構築を行い測定温度の安定化を図った。さらに、ノイズを極力排除するために、ステンレス粉末を用いたフィルタの作成を行った。これまでに測定系の構築はほぼ終了し、現在この新しい測定系の性能検証を行っているところである。 (2)昨年度の実験結果からもわかる様に、CDW物質の一次元原子鎖に垂直な方向には良質な固有CDW接合が形成されていると考えられる。この特性を最大限生かし量子コヒーレンス由来の信号を検出可能とする新しい試料配置を考案し、これを実現する結晶の加工プロセスを確立した。 (3)CDW針状結晶をSTM探針として用いる事により一次元原子鎖方向のCDW接合系が構築可能であると考えられる。この着想から、STM測定に適したNbSe_3単結晶の作成とそれを用いたSTM探針の作成、金基板上でのSTM分光測定を行った。結果としてCDWギャップに由来すると思われるピーク構造が得られ、ギャップの値は文献値と一致した。 装置の故障が重なり計画が遅れたが、本年度までで試料の作成法の確立と測定系の構築がほぼ終了した。最終年度となる来年度は実際に上記2種類のCDW接合系で測定を行い、CDW接合系の量子コヒーレンスについて具体的な検証を行いたい。
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