研究概要 |
本研究の目的は、電子蓄積リング内の残留ガス分子の発光を観測し、ビーム蓄積時のビーム軌道上の真空計測方法と、ビーム位置測定方法の開発研究を行うことである。今年度は、主に残留ガス発光を観測するための観測用チェンバーの設計検討と製作を行った。分子科学研究所極端紫外光研究施設の放射光源加速器(UVSOR-II)のビームダクトに既設の観測窓を利用し、残留ガス発光観測の予備実験を行い、そこで得られた結果をチェンバーの設計に反映させた。以下、予備実験で得られた知見と、観測用チェンバーの構造と観測方法に関する考察を以下に述べる。 1.残留ガスの発光は微弱なため、光子計数法による観測が有効と考えた。光子計数用光電子増倍管を用い、時間分解光子計数システムを構築して予備観測実験を行った結果、同観測システムは当該研究に十分な時間分解能(数ナノ秒)を持つことを確認した。同システムを用いて実機による実験を行う予定である。 2.予備実験の結果、ビームダクト内の散乱放射光の影響が予想外に無視できないことが分かった。この結果を踏まえ、観測用チェンバーには散乱光を積極的に遮断する吸収体を設けることとし、更にチェンバー内壁を黒色塗装することにした。超高真空条件を損なわない塗装法を調査し、TiCNコーティングを施すこととした。 3.微弱なガス発光を波長特定するため、予備実験では異なる波長透過特性の光学フィルターで分光することを試みた。残留ガスの主成分である水素の輝線(656.3nm)とその近傍(636.2,694.3nm)の干渉フィルターを用いた。光子計数時間構造を観測した結果、現段階では放射光の散乱光の影響により透過光波長による差異を観測するまでには至らなかったが、当研究での分光の一手法として有効であると思われる。 観測用チェンバーは次年度UVSOR-II加速器に組み込まれ、実機による実験を行う予定である。
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