本年度の研究では、多次元赤外スペクトロスコピーの実験結果に解釈を与える理論的枠組みを提案し、多次元赤外スペクトロスコピーの持つ新たな可能性を提示することを目的とした。 タンパク質などの生化学分子や二量体分子の多くでは、双極子-双極子相互作用と双極子-誘起双極子相互作用という二種類の本質的な双極子相互作用が働いている。これらの相互作用の強さは相互作用距離の三乗に反比例する。この事実は、もし二つの相互作用の効果を単独で検出できたならば、分子構造に関する情報をfsやpsオーダーの時間分解能で直接得ることができることを示唆している。 本研究により、多次元赤外スペクトルにおいて、二つの双極子相互作用・分子振動ポテンシャルの非調和性・双極子と分極率の非線形性の4つの主要な効果の大きさを見積もることが可能となった。また4つの効果が同程度に出現するような複雑な分子モデルにおいて、多次元赤外スペクトルは双極子-双極子相互作用と双極子-誘起双極子相互作用、そして分子振動ポテンシャルの非調和性をそれぞれ独立に検出できることが可能であることが示された。特に、双極子-双極子相互作用と双極子-誘起双極子相互作用がそれぞれ単独で検出できたことで、それらのピーク強度から分子構造に関する情報をfsやpsオーダーの時間分解能で直接得ることができる。 また実験やシミュレーションの簡便な解析ツールとして、本プロジェクトで得られた理論的な表式を基に開発した無償プログラムをweb上で公開している。
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