研究概要 |
脂質の形成する高次構造の一つに、キュービック相と呼ばれる、脂質膜がナノメートルサイズの入り組んだ空間を形成する構造がある。本研究では、このナノメートルサイズの空間に、同じようにナノメートルサイズのタンパク質を拘束した際に、タンパク質溶液の示す溶液挙動、および脂質構造が示す構造転移を詳細に調べ、これらに対する現象論的、および分子論的なメカニズムを、主に光学的手法を用いて明らかにすることを目指した。本研究での今年度の成果をまとめると以下のようになる。 1.脂質構造がタンパク質溶液から受ける影響をX線小角散乱法を用いて調べ、タンパク質分子の並進、回転のエントロピーを最大化するように脂質構造が構造相転移を起こすことを見いだした。 2.脂質高次構造中のタンパク質分子のダイナミクスを直接観察するために、顕微鏡による実像観察と同時に、動的光散乱法、蛍光相関分光法を行える新しい測定システムを開発した。 本研究で開発した、顕微鏡観察下で動的測定(光散乱、蛍光相関)を行えるシステムは、試料中に不均一性がある場合,実際測定しているのがどのような領域なのか、実像を用いて確認できる大きな利点がある。 本研究によって、今後解決していかなくてはならない問題点も明らかになった。まず、蛍光相関分光法は本質的に一分子(粒子)計測であり、現在の測定システムではタンパク質分子1分子の計測には感度が足りない。この問題の解決のためには、レーザー強度の増加、蛍光色素の選択等が考えられる。同様の問題が光散乱法にも当てはまる。本研究で開発したシステムの適用範囲は現在のところ合成コロイド粒子系(〜100nm)であるが、今後はこれをタンパク質系(〜10nm)に適用できるように改良していく必要がある。
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